"男だからそんなにやわじゃねぇよ
もっとのっかってこい"
太平洋戦争から終戦くらいの話って好きなんだよな。
BLでそこまで題材にされる時代ではないし、はっきり言って美しい時代じゃないしね。
世界が、日本が総狂い時代。
現状を平和ボケと揶揄する言葉を聞くけれど、平和にボケれる世の中にしてくれた政治家や先人たちに私は感謝する。
ついったでは不人気な党、私は好きなんだ。細かいところはどうであれ私は本当に幸せだと毎日実感してる。そう国民が思うのは(もしかしたら少数かも知れないけど)それは国作りとして大成功なのでは?未来がどうかは知らないけど。
1950年代、敗戦の疲れを色濃く残しても生き残ったものは逞しく新時代を生き抜いていかないといけない時代。
米兵相手のキャバレーで働く征。
米兵に群がる日本人女性。
生き抜きゃならん時代でも、子供の頃からそんな女をみっともないなって見てた。なーーーんのために南方で地獄の苦しみを味わって死んでいった若い日本兵がいるわけなん?(私はガダルカナル島戦線にかなり囚われて生きてる)
背の高い白人にしなだれかかる顔のデカくてブスな日本人女を写真で見るたびぞっとしたねんな。あぁみっともない。絵面も精神もみっともない。生きるのに精一杯やったんか知らんけど汚いねんな。
と罵る自分かてその時代に生きていれば真っ赤に口紅を塗って背伸びで米兵に媚び売るんやろか。あぁいやだ。
とまぁ、昔の人を悪く言うのは大概にして(ごめんなさい)
ゲイの米兵がノンケのバーテンダーを誘うところから物語はスタートする。
ノンケのバーテンダー征は出兵の際死ぬような目に遭ったことがトラウマになっていて夜1人で眠れない。
洞窟の中に閉じ込められたのかな?そこで親友が死んだ。
長い夜。
それって永遠とも思える長い夜。
終戦してもその夜は続き、1人で長い夜を過ごすことができない。
ジムの誘いに、ここではないどこか。何か変われるのでは。という何かに期待してのる。
そして、紳士的でまっすぐなジムにだんだん惹かれる、トントン拍子。
実は中々のいいことの家の息子である征はジムとの関係と父親になじられる。
ここ、ここね、みんなそうだと思うけど私もすごく胸が苦しくなっちゃった。
ジム、征、父親。
現在ならば父親の言い分は鼻で笑うところなんだけれども、父親は相手が男であるということより、征の兄や親友を殺した憎き米兵に庇われるその精神性をなじる。
憤る父親を尤もだと思う。そんなこともあったねー。って流せるほど過去じゃない。
ジムの全てを見透かした機転のきいた言い訳が苦しい。
征のただ震えて謝るその様が、魂の傷からまだ血が流れていることを示唆して苦しい。
征は肝心な時には泣いてばかりだと悔恨するけど、何が出来るの?なりたくてなった軍人でもない、ただの青年が戦争に行き、親友を目の前で亡くした、苦しむ以外に、泣く以外に、何が出来るっていうの?誰が彼を責めることが出来るの。
ジムは去る。
時代の波には個人は無力やんな。そんな時代にはなおさら。
でも、月並みな言葉だけど、愛を選んだんやんな。
フェリーでアメリカに行く征を見守る母親に泣いたな。戦争に行く息子2人を見送り、1人は帰ってこなかった。
そして、また息子を。もう多分会えない。見送る。
愛を得た2人はとっても幸せそう。本の中では。
でも知ってるやんな。その時代から割と最近までアメリカで同性愛を貫き通すことがどんなに過酷なことなのか。死ぬような目に遭うかもしれない。日本よりずっと危険だと思う。
そんなこと2人はきっと分かってる。
"男だからそんなにやわじゃねぇよ
もっとのっかってこい"
2人は大丈夫。
朝がもう来ないかと絶望する長い、長い夜を越えられたんだから。