"あれが俺の好きな松田だから だから…
俺 …おれはもしかしたら
そういう人に ひとたちに おかしいんだってちゃんと言ってもらいたくて"
松田って明るくて裏がない男の子で自分を好きになったりはしない正しい男。だから大志は松田を好きだと思い込んだ。実際好きだとは思うけど、手に入れたい愛されたいと願う好きじゃない。
松田が自分のことを好きになったならそれはもう大志が憧れた正しい男じゃなくなるもんね。
松田に仄暗いところが実際にあるのかどうかはわからないけども何もないと人に見られるのは羨ましいな。
受験、浪人、浪人の夏。
浪人って、人生が止まったように感じるよね。本当は止まってなんかないのに、前に進む同級生を尻目に宙ぶらりんの停滞。
親友の優しい脅しに乗って松田のために髪を伸ばす。
浪人の息苦しさと、青春の夏と、徐々に伸びる髪と、隠している国の恋心が、10代最後の夏のまだ世間を知らない自分の身の回りだけが全ての幼さと、取り残されて先が見えない焦りで苦しくなる。
受験は努力しなくちゃいけない。
日々頑張らないといけない。
髪を伸ばすって努力しなくても勝手に伸びる。
頑張って伸ばす!とか言うても頑張らなくたって生きてりゃ伸びる。
ただ、それはなにか一歩ずつ結果を残しているような気がする。
前髪が眉毛を越して、鼻を越して、肩について…っていうのは、ゴールに近づく気がするような気がする。その先には松田に告白するっていう目標があるしね。
松田の彼女、全く平凡で髪もショートで、なんかガサツそう。だから私達もがーんってなる。
国と大志は、今、まさに、世界で一番切なく美しい関係を構築していて、こんなに大志は美しいのに!しかも浪人生で髪を伸ばしてなんだかデカダンな雰囲気さえ醸し出してるのに、君の彼女のなんと平凡でアンチロマンチックなことよ!
松田が大志に一瞬心を奪われ、伸びた髪を触る。
この瞬間に、大志の想いは自覚あるなしに関わらず完全に成仏したんじゃないかな。
大志は 変 なんかじゃないから。
国のような男の子に愛されるのは幸せやな。
自分の気持ちを押し付けず、心を殺し、ここぞってときにそれをテーブルの上に並べ、きっちり愛す。
侍のような男や。あっぱれ。