"ご病気のご兄弟ー…
母親も 父親も
この世にいないなんてー…"
冒頭の父のお葬式の時、会ったこともないジジイの葬式で泣いている女として典彦に呆れられてたさち子。
葬式だからなんだから泣いておこうという脳味噌のない女ではなく、育郎に取り入ろうと泣いたわけでもなく、ただ優しく他人を見て(全く持って勝手な自分目線ではあるけど)、1人になった育郎に思いを馳せて泣いてた何も知らない純粋な女の子。
父の歪んだ愛を独占した無垢な蘭蔵。
いくら汚しても蘭蔵の魂は穢れないからこそ父親は足繁く檻に通ったのかな。
妻は醜い嫉妬で妹や蘭蔵を妬んで自分を欲しがる。
その息子の育郎も母親に似て、父からの真っ当な愛を欲しがる。その全てが汚らわしく思ったのかしら。そんな父親が1番最低で汚らわしいんだけど、そういう奴はそういうもんやし。
かわいそうな育郎は、母親は気が狂ってる、後継としての母からの重圧、自分をチラとも見ない父親の中で典彦だけが欲しい言葉を欲しい時にくれるし、自発的に何も選択もしないし欲しもしない。
この御本読んでたら、
そーーんなにセックス大事です?そーーーんなに人生破壊してまでお尻に挿入しないといけません?
って度々思っちゃう。
育郎が議員のおっさんに犯されていて、典彦がさち子の覗いててててもうこの世のどん底を見せつけられてるよう。育郎が美しく聡明であるほどその汚れは絶対落としきれないし、追い討ちをかける典彦が恐ろしい。
典彦が育郎の
"思慕も愛情も信頼も憎しみも苦しみも絶望も総て"欲してる。その苦しみと絶望が育郎を苦しめた時、さち子の真っ当な優しさに救われたのに、またそのあの、そんなにお尻に挿入されたいですか?いい加減にしてくださいよ、坊ちゃん。って喝を入れたくなってしまう。
ここが生活を立て直すチャンスだったように思うんだけど、立て直すってどんな風に?
さち子と暮らしていくことが?
飯田も上っ面と自覚しながら真っ当に幸せになれって育郎にいっていたけど
育郎の芯から望むことは檻に囲われたい。兄のようになりたいであったがため結局のところ典彦の檻に自ら入る。
典彦は、育郎の母の"赦します"の甘い蜜を求め、
育郎と再会してもまだその渇きは収まらず、最後に育郎の"赦すよ"に何を見たんだろう。
さて、物語の最期にはやっとのこと、育郎は焦がれて仕方なかったあの日牢で見たあの蟷螂に、薄笑いを浮かべて長い手足で捕食する蟷螂になった。
物語の冒頭では、いいとこの優しいお嬢様であったさち子。
彼女は徹頭徹尾正しい。彼女は常に正しく美しい。
蘭蔵の面倒を見、会社を立て直し、
"他人を貶めた上に成り立つ幸福に何の意味があるのでしょう"
ときっぱり言う。正しい。
ただ、芯から冷える感じがする。
周りの男どもは色恋に狂う。
彼女は誰にも熱烈に欲されない。きっとこれからも。
甘い蜜を知らぬ彼女に、幸福の意味が分かるのでしょうか。