"俺は偽物(プラスチック)がいい
その薔薇は決して枯れないからだ"
これはすごいものを読んだんですが、ネタバレなしで読んでほしいから未読の人はぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーったいにここから先は読まないでね。
未読の人、タイトルの硬い感じとか、独特の絵柄とかそういう瑣末なことは気にしている場合ではありません。すごいから読んでくださいね。
大きなお屋敷、広い庭には山から吹く冷たい風で植物は育たない。
この庭に花を咲かせてみせましょうと豪語する美しい謎の青年。大きなお屋敷の王様は懐疑的に彼をみる…という物語の始まり。ほらもう既にARUKU先生の物語の魔法に酔ってしまう。
その庭師の青年は、飾らなく無邪気で私利私欲のない言動でお屋敷の人、王様ですらずんずん虜にしてしまう。そうなの。ARUKU先生の描く無垢な男の子は本当にかわいらしいんだからね!と私だって虜になる。
それがそもそもただの詐欺師とはね。
詐欺師の仲間と会う時は、というかお屋敷での小芝居が終わると途端に詐欺師の顔になって、言葉遣いも全然違う。というかなんだか今を生きているただの男になる。
詐欺師のお面を被るとかわいくなる。
脱ぐとかわいくなくなる。というか普通になる。
面食らうな。それに慣れない。
王様は気付く。
彼を愛していることに。
自分は父親のような鋼の鎧をつけた弱い人間でなく人を愛せる人間であることに。
そして自分が愛している人は自分を騙していることに。そしてそれでも彼を心底愛していることに。
ただの詐欺師と読み進めていたのだけれどなるほど、詐欺師先輩がいたのね。
昔々に両親を死ぬより酷い目に遭わせた詐欺師。
その詐欺師は身体が弱りボロ雑巾のような生活を送っている。そして子供の自分の贈ったカエルの折り紙をまだ持っている。
だから何?カエルの折り紙を持っていたから何なんだろう。あの時、子供の自分が折った折り紙を後生大事に持ってるから何なんだろう。今、糞便まみれて惨めな生活をしているから何?自分から奪ったものの深さは何も変わらない。知る前と知った後では何も変わらない。過去は変えられない。
ただその事実は、自分が詐欺の道を歩んだように、何か背景を想像する一手になったのかもしれないね。
特定の何かか、それとも拝金主義なのか、美しい顔に惚けるもののせいなのか。
さて、物語は大きく動く。詐欺が公になり詐欺師は捕らわれそう。王様は守りたい。
逃がそうとする。
ここでのサンドイッチとホットチョコレートのお話いいなぁ。ね、王様の真の愛情が痛々しく突き刺さってもうサンドイッチが心臓に刺さりホットチョコレートで熱傷を負う。詐欺師もそうなんだね?だから刺したのだ。愛を突き返す。愛してるから刺す。さぁ!ねぇ!もう!終わりなんだよ!今生では!もう!死ぬほどの傷じゃないことなど分かりきったこと!
詐欺師の美しい笑顔に誰しも魅了される。検事さえも。ここの時間の流れ、すごくいいよね。突拍子もなく詐欺師に惹かれるわけじゃない。
彼に魅了されるのはその美しい笑顔だけではない。もちろんその笑顔は多分に加算されるけれども。
検事に!ペンを突き立てる!
きれいなものには毒があることをこのようにしっかりと目に焼き付ける描写がこの世にあるのかしら。
さてここからまた詐欺師は私を嘲笑う!なんていうARUKU先生の手腕なんだろう!全く違う印象にみえるよね!出所してからの彼は!
誰も彼も彼に惹かれ、そして弾かれる。(弾かれすぎな彼もおるけどあのシーンは美しい。薔薇を愛する人に薔薇を買って…という描写!とっても映画的な表現方法でARUKU先生は映画監督のような漫画家なんだけどきっと何らかの理由で漫画という表現方法を選んだんだと思う。そしてそれはすごく成功してると思う)
さて、
そう、
とっても静かなラストシーン。
詐欺師の彼はあの誰しもを魅了するとびきりの笑顔をみせることはできない。
だから何?
"愛してる"
ということは、こういうことなのだ。