"俺は餓死だった
母ちゃんに申し訳なくてな"
ここのシーンね、このセリフ。
桃里の美術学校の戦争で死んでいった友人が口々に死因を語るこのシーン。
美しい海の上で、所狭しとイーゼルを並べ、学生時代の頃の軽口をたたいて絵を描くその雰囲気そのままで、本当、そのまんまの雰囲気でね、世界中に散り散りになって消えていった才ある青年達が無駄死にをしたその死因を明るく語る。
餓死をして、母を想う。そんなのもう堪らないよ。
私ね、第二次世界大戦と戦争直後の話し好きなんだ。
特に、南方に送られこの世の地獄の戦況で死んでいった話しがあまりにも命の無駄遣いで苦しい。
病気のため、戦争に行かなかった美大生の桃里。
空襲の時に伯母さんを救えず、友のように戦争で死ぬこともなく、かといって手に職はなく、絵を描くなどなんの腹も足しにもならないことしか出来ず、なんだか男色家に囲われてますがこれでええのんやろか。ってところから物語が始まる。
確かに戦後直後の動乱の世で、無名の美大生が安穏と生きていくには中々大変やろうな。
看板屋さんの絵を描いて、喜んでくれて、たい焼きをもらって。っていう些細な出来事が、日本がなんだか確かに少しまともになっていく感じがする。
腹の足しにならんことを楽しめる愛でるのは心に余裕があることやもんな。
烏羽さんは始めから桃里を溺愛してるけども、きっかけとなる事が、瀕死の怪我をしたときに北原白秋を朗読し、なんだかわけのわからんことをぺちゃくちゃしゃべる桃里と出会ってた過去がある。
烏羽さんは特攻隊として死ぬ覚悟をして飛行機にのり、結果死ななかった。
一度死ぬ覚悟をした人、そういう状況に置かれた人、そうして本当に死ぬんやなって経験した人、そんな人が生きてベットの上で北原白秋の朗読をきくっていうなんかその運命のトチ狂った感じ。
桃里はかわいいねぇ。坂の上に暮らす病弱で絵を描く美しい青年。確かに戦争によって美しい魂が少し削られてしまったけどもそれは日本人みんな同じだろうから。
不思議の庭で囲われて俗世を離れてるみたいでより一層儚げで無邪気。「はわ」って言わないよ。かわいいよ。
セックスのときケタケタ笑って笑ってなんだかいいなぁ。
だって生きてるからセックスするんだもん。
生きてるから。
死んだ人は出来ない。死んだ人の事を思い過ぎて自分の今日を喜べないなら、笑ってセックスできない。
桃里は懸命に生きて、絵を描いて、セックスして。
笑ってセックスする理由が無垢でなんてかわいらしいんだろう!
彼らの今後は分からない。桃里は長生きするのかな?
するといいな。
時代に翻弄された彼らがせっかく見つけた愛と希望なんだもんな。
2人でたくさん色を集めて。そしていつまでも愛し合って。
わたし、いつもARUKU先生のお話、夢中になっちゃう。感情いっぱいなのになんだかいつも上手くまとめれんなぁ。
とりあえず受けの愛らしさにカミナリうたれて真似したくなっちゃう。はわ。
最近、戦中戦後のBLをもう一冊読んだからまた感想書きたいな。その作品ももちろんすごくよかったから。