BLが好きになってから長らく苦手としてたオメガバ。
何故苦手なのか。
αだのΩだのヒートだの抑制剤だの何かと独自ルールがあって覚えられない。
(人の作ったルールを覚えるのも守るのも大嫌い)
という事と、現実にはない設定であるのにその本の登場人物がとにかく傷つけられる。
わ ざ わ ざ 傷つけられるわけです。本当はそんな第二の性はないのに。
色んな差別が世の中になるけれどもオメガバという性は完全な創作であるんだから。
(オメガバの設定自体があらゆる性差別のメタファーである側面はあるけれども)
そしてこちらの御本ではそのオメガバの悪しきところが存分に発揮されている。(念のため言うけど感嘆してる)
これでもか!これでもか!と畳み掛ける。
なぜそんな現実はないのに架空の設定においてここまで大変な目に遭わないといけないのかと読み手をどん底に突き落とす。何度も背中を殴られ、何度も底に突き落とす。実際にはないのに。
円がΩを偽装するため卑猥で下品なAVを観ながらセックスの練習をするその痛々しい様は一体何。
痛々しくて、真剣さが滑稽で、滑稽であればあるほど、そんなことをあの清廉潔白な円のΩではない惨めさと、絶対に嘘を突き通すという確固たる決意で辛くなる。
この円の壮大なウソを"優しい嘘"と片付けるのはちょっと違う気がするんだけど、優しい嘘って人を救うよね。嘘を信じたなら、2人の間では1番の真になると思うんだ。
あの嘘は子供時代からお互いを知り過ぎた故、吐木の1番の傷を守ろうと円は人生をかけた。
(ほんまはそんな第二の性はないのになんちゅう宿命や)
円がヒートを装うために、濡れる玉?みたいなものをアナルに何個も入れ、演技をし、おかしくなる、と口にしたそのなんとも哀しく美しい様よ。
どうかこの嘘がバレないで。バレて。こんなこと、円にさせないで。演技だとバレないで。なんでばれないの?ちゃんとわかって!円に恥を吐木に重い重い罪悪感を負わせないで。ここで終わらせて。嘘がずっと続いて。円がβだと気づいて。気付かないで。こんなことを円にさせないで。2人は運命の番として一緒にいて。ってピンポンのように感情が行き交う。
そうして、さてまぁ、円がΩを装っていた為に合わなくてもいい被害に会った時すら、まだ!まだ!吐木にバレるとこを恐るるなんて!
結局のところ、αだのΩだのは関係なく2人は魂の深い所で繋がっているのに、くだらないオメガバ世界のせいで歪められている。
なんだかそれは同性愛へのアンチテーゼなのかしらん。
"世界がみんなβなら"ってまぁそれ現実の世界やねんけど、なんやかんやあるわいな。
搾取されるΩとか、ヒエラルキー上位のαとか。
あるやんね。説教くさいことは嫌いだからもうやめよ。
20代前半の頃かな?何かにかぶれたのか瞼が痒くて。
何の気なしにカキカキしてたらお岩さんみたいな目になったの。
病院に行ったり、絶対掻かないように気をつけていても痒みに負けて寝ている間にカキカキしてたりして、朝、目がさめたら1番に枕元の手鏡を取って確認するの。
どうか今日は治ってますように!
目覚めの瞬間に祈り鏡をみると大きく腫れ上がった化け物のような自分の目。
容姿に関してすごくすごくすごく執着のある自分はもう死にたいとすら本気で思う。馬鹿みたいだけど本気なの。
その時彼氏に「目、めっちゃ腫れてて嫌や」って言うたら
「なに?なんもなってへんけど」っていうわけやねん。
なんもなってないわけない。みんな私の目をみる。会社でもどうしたんって言われる。気づいてないわけがない。
嘘やとわかる。ただその嘘がどんなにか自分を救ったんやろか。
夫婦となって長いけども、いまでも思い出す。なんてことない繰り返す毎日の中でそっけなく返された返事や、大ケンカして殺したいほどムカついた夜もその言葉を思い出す。
優しい嘘が確かにわたしを救った事。
だから彼はまだ生きてるし、私が刑務所に入らずに毎日BLが読めるのは、あの日の
「なに?なにもなってない」っていう小さくて優しくて正しい嘘なんだ。