お前を世界でいっとう愛してるよ
かわいい俺の息子…
ベトナム戦争で戦死したオズの父の言葉。
父親が無条件に息子を愛すように、疑いようもない真っ直ぐな愛をオズに捧げるテオ。
ラムスプリンガの情景にすっかり虜になってしまったよ。
ベトナム戦争がすごく好きで、好きっていうと語弊があるんだけどとにかく昔から興味を惹かれるねんな。
若いアメリカ人青年が、アジアの密林で、いつ奇襲をかけられるかも分からない極限状態で行軍し、足元はぬかるんだ道を歩き続けた為にブーツと素足が擦れ皮膚が千切れる痛みに耐えながら、個人的には全く恨みもないベトコンを殺し、または昨日一緒に夕食を食べた仲間が殺され、今日自分はこの故郷から遠く離れたアジアで死ぬかもしれない。
地球の裏側故郷では戦争反対のヒッピーが溢れ、薬と享楽。何のために自分が死ぬのか、何で知らないベトコンを殺すのか最早誰も分からなくなり湿度を孕んだねっとりした混乱の様が自分を惹きつける。
そのベトナム戦争で父を亡くし、遺体も帰らず、父と約束した夢を守ろうと努力したオズ。
父が死んだであろう光もまともに入らない鬱蒼としたジャングルとは1番真逆のブロードウェイの舞台で踊りたいと願ってる。
現実は場末のバーでウェイターをしながら男娼をしているわけだけど。
アーミッシュによるラムスプリンガが話の軸になってる今作なんだけど、「選択する」事が1番のテーマ。
人生は選択の積み重ねによって成り立ってるけど、たいていのことはどうにかなるよね。
嫌な仕事についても辞めればいいし
何かを捨てても買えばいいし。
でもテオの選択は一度そう決めたのなら後戻りできない。
アーミッシュの暮らしは毒を排除してまっさらで、便利を利用しないから何をするのも時間がかかるよね。一つの食事を用意するのだって。
だから娯楽がなくても一日がとっても短いし単純だと思うんだ。それにいい悪いはない。自分で選択してのアーミッシュなんだから。
でもラムスプリンガはちょっとズルい制度でもあると思う。
そんな純粋培養された16.7歳の子が、さ、人生の青春ですよ。ラムスプリンガです。お外の世界に行ってらっしゃい。ってなってもお金の稼ぎ方も知らない。悪意を持って自分達を見る下衆な人にも会う。それがどうしたってもうあの暖かなアーミッシュの村に戻らない選択をするのだろう。と思っちゃうよ。
けれど真っ白、全く純白だった少年少女はラムスプリンガを経ると、少し白が濁る。
その人間らしさがアーミッシュの人々の、死ぬまでアーミッシュの中で生きていく決断をした時に、少し諦めた何かがあるということが、自分と然程変わりのない同じ人間なんだろうと親近感が湧くんだよな。
例えばクロエ。
テオの事を心から大切に思いダニーを愛してる。
ラムスプリンガで学校に通い、自分にはもしかすると美術の才能があるのかもしれない。
でもダニーを愛してるからアーミッシュの村に戻って結婚するの。
ここにはたくさんの本音と建前と願望と諦めが混じってて強烈に共感した。
真っ白のクロエにラムスプリンガはいくつ他色を混ぜたのだろう。
テオの事を想うダニーに気付く自分。
だから、テオのことは心底大切なんだけど、外に出て行って欲しいと少し願う自分。
美術には興味があるし、私だってアーミッシュでなければその道で生きていけると思います。いや、でもアーミッシュですからね。と言い訳をいいつつ自分の才能は中の下くらいかもしれないと恐る自分。
ダニーと結婚することで、才能のある人に嫉妬を抱くこともなく、そんな競争からは身を引けることに安堵する自分。
このクロエはオズとの対比で、
オズは己の才能を認めてもらう為努力した。勝負に何度もでた。でももっともっと才能のある人はいる。
それを何度も何度も徹底的に見せつけられた。クロエは自分を試されることなく村に帰った。
ダニーは自分でも自覚してないかどうかのスレスレの部分で確かにひっそりとテオを好きなのかもしれない。アーミッシュだからそれは封印しないといけないけど。知らない感情には蓋をしないといけない。去っていったときには慟哭の金切り声を上げる程の熱情ではあったんだけど。
テオは大きな愛でオズを愛して、変わっていく自分を恐れず、真っ白な自分が何色に変化しようとも受け入れて、その愛はオズに自由を教えて、きっと2人の先の道は傍目にはなかなか大変なんだろうけど、バイクの行く先は広く開けてるだろうと思わせるラストで完璧でした。
だからこのエンディングにはこれ。
レッチリのsnow
ドラッグの白と真っ新の白とそこからの再生の曲。
大好きなんだ。
自分にもラムスプリンガがあったんだよな。確かに。でも結局村に戻った側なんだ。わたし。バイクで知らない場所にはいけないよ。