"あの服も…実は叔父さんのなんです…"
この時のウジンの顔。
勝ったのはサンウでなくウジンじゃなかろうか。
まぁサンウはウジンと勝負してた訳ではなくスンベにあてたセリフなのかな?
毎回同じようなことを言ってるんだけど、この物語は本当に私を夢中にさせるしBL枠に囚われず、好きな本ベスト5に入るくらいお気に入り。
100%どこをどう取っても完璧にモノマニーなサイコパスであるサンウ。
映画や物語などでは往々にして魅力あふれる人物としてサイコパスが描かれてることが多いよね。
私も羊たちの沈黙のレクター博士やセブンのジョンには抗えない魅力を感じる。
特にレクター博士は知性も狂気も申し分ない。
サンウは若く、美しく、フィジカルも完璧で誰からも愛される(誰からも愛される、というのは徹底的に外側からだけれども)。だからこそウジンはサンウのことが好きで好きでたまらなくなった。
キリングストーキングの物語は
BLというよりかはサイコスリラーだと思うんだけど、サイコスリラーにおける私が大事に思う2大要素は完璧に兼ね備えてる上にウジンという圧倒的弱者に見せかけた1番の狂人が存在しているから唯一無二の物語になってると思うんだ。
だからこそ私を夢中にさせるし、2人が好きだし、何よりウジンの全てを知りたい。
サイコスリラーの2大要素なんて大仰に言うたけど、要はサイコ野郎がバチクソに魅力的であるということと、しつこい、というとこ。
理由のない狂気、終わりのない狂気、ふぅって一息ついたらもう新たな狂気始まってる、そんな手間かかることするくらいならまともに生きた方がなんぼか楽やろうに。
サンウの事を考えてたら、ふとこの御本思い出したんだ。
リヴィエールという青年が母妹弟を斧で殺した。その青年が書いた手記をミシェル フーコーが裁判記録等と共に論考している本。
まぁほとんど内容忘れてたから再読したんやけど、リヴィエールにもサンウ同様とんでもない母親がいるわけなんですね。諸悪の根源の母親がおる。読んでいるこちら側も殺して当然なんじゃないのって気軽に思う(あくまでリヴィエールの手記だから真の真実は分からない)
裁判でも論争になった事は、
父のために殺した。という事
そして父がその事において自分を哀れまず憎むように、父が愛していた弟も殺した。という事。
その理解しがたい狂気と、理路整然とした手記がミシェルフーコー達が関心を寄せてたところ。
この本を引用すると
サンウもリヴィエールも「気まぐれの暴君である女」に悩まされる。「母親が息子をつまずかせてしまうがために欲望する」
神経症の母親によってサンウはたくさんの呪いをかけられるし実際殺されかけてるし、死に際の予言のような呪詛をいつまでも反芻する。
女の醜さを嘲って女を殺したり
ウジンに母親を見ていたり不安定で横暴で
母親のイカれ具合と父親の暴力性が見事にシャッフルされて、プラス男前な顔でサラリと嘘を吐き、頭もいい。
ウジンがもっとまともなら物語はもっと凡庸に進んだのかも知れない。
ウジンを被害者だと言ってしまうのは語弊があるんだけど、一応サンウの暴力の被害者。
ガリガリの小さな身体で、世間的にも家族内でも対サンウでも、超絶圧倒的弱者として描かれる。
だけれども圧倒的弱者のくせにウジンは物語の冒頭から一貫して自分勝手なのね。
勝手にサンウに惚れて家に不法侵入しサンウのベッドでオナニーしてるわけで全然もう犯罪者なのね。
「サンウは優しい」
コレを変えないんだよな。
サンウに惚れに惚れて、サンウを丸ごと愛してます!って訳じゃ全然ない。全然違う。
サンウの優しくない面を見ると、というかウジンは暴力しか受けてないんやけど、帰りたい。ひどいって泣いて震えてサンウを拒絶するくせに、ちょっと甘い面をサンウが見せるとその事だけをしっかりと記憶して、そのサンウしか愛さない。
サンウのほぼ全てを構成する加虐性は、やめて、いやだ、って泣いてスルーして時には憎み真剣に取り合ってない。
見たいサンウだけ見る。そのうち見たいサンウを引き出せるようにすらなってくるんだけど、だいたい返り討ちにあってまた暴力振るわれてるね。
サンウもそんなウジンを全然信用してない。
最後の最後までウジンは勝手で
醜いサンウをサンウと認めない(結果認めてたけど)
自分が犯罪者になりたくないばかりに証拠写真をどうにかしようとする
だけどやっぱり会いたくなる。
病院で必死にオ・サンウって言ってるのに何度も聞き間違えをされるシーンなんかは本当物語の作りが上手いなぁ。
最後のシーン。
サンウを見かけるウジン。
泣いて、待って待って。って言ってるけど、
サンウじゃないとこぐらい分かってるよね?
ねぇ、約束したよね?サンウと。
サンウが死んだら、絶対自分も死ぬって。
勝手に虚像をストーカーして、約束守らないんだね。ウジン。好きなんだもんねサンウが。
サンウは母と重ねて見てたウジンを曲がりなりにも愛してたのかな。まぁ殺さずにそばに置いてやるだけの執着はあったにせよ、ウジンは結局、自分の見たいサンウしか見ず、それはほとんどサンウでないような気もするけど、何かサンウのようなものを強烈に愛してる。というウジンを私は愛してる。