"それとすごく…怖くて…"
私達BL大好きの民からみると馴染みのない絵柄だと思う。そして表紙の彼らは恋に落ちない。もちろん。
だけどお願い、読んでほしい。
男の子たちが恋をしている物語を日々消費している私達は一度しっかり読まなければいけないと思う。というと何やら説教くさいんです?説教はいいんですよ。もちろん偏見なんて無いですから。って身構えちゃうんだけど、ほんとにいい物語だから。きっとみんなこの3人、いや4人が好きになるはずだから。そして世の中の小さな偏見を悲しむと思う。
双子のヤイチとリョージ。
弟のリョージは亡くなり、その夫であるカナダ在住のカナダ人がヤイチの家を訪れるところから物語は始まる。
ヤイチはなんていうか、すごくニホンジンやねんな。
ノンケである。娘が1人いる。離婚してる。
カナダ人の弟の夫というマイクを本能的に受け入れられないんやけども、全くの邪険にするほど礼節を欠いてはいない。ただ理解できないし、したくもない。
そういったところからスタートするんだ。
マイクが家に滞在する。
リョージと全く同じ顔のヤイチ。
マイクが寝る部屋はリョージの部屋。
畳にマイクが顔を埋める。
微細なリョージの面影を追って。わたしはもうここの物語が始まっての僅か数ページで涙腺が崩壊した。
ここのシーンでどれほど!どれほどの喪失の重さをマイクが背負っているのかをまざまざと見せつけられてあぁ芯から芯からマイクはリョージを愛していたのだ。そしてリョージの死がどれほどの深傷であるのか。心臓が割れるほど感じる。そしてそれはヤイチも感じ取る。
ヤイチは心の中の本音と外に出す声を使い分ける。
マイクが酔ってヤイチに抱きついたシーン。ここ、読んだ人、多分みんな、声をあげて泣いただろうね。
私はしゃくりあげて泣いて、ああ思い出すだけでなんて苦しい。苦しい。泣いてしまう。
ヤイチはさ、大家さんみたいな仕事してるんだよね。家賃管理的な?結構楽ちんな仕事やなーって思ったりする。だから一人娘の面倒も見れるし割と時間に余裕がありそう。
マイクがね、すごくマトモやねん。日本語も丁寧で、亡くなったリョージにそっくりなヤイチを見るのは中々しんどいことやと思うねん。
そして偏見があるだろうヤイチとの接し方もすごくちゃんとしてるの。ちゃんとしてるって言い方はおかしいかもしれないけどすごくちゃんとしてる。
近所の中学生の男の子が自分がゲイだと悩んでいるくだりも心がぎゅってなったなぁ。今日もああして悩んでいる子がいるんだろうね。
自分と同じ仲間は沢山いるらしい。ただそれはインターネットで見ただけ。きっとトーキョーとかニューヨークとかそんなところにはいるかもしれないけれど、家族はそうじゃないしクラスメイトも違うみたい。っていう疎外感。
仲間に会ったとて家族には?どうやって?学校でいじめられたり?
おもしろおかしくゲイカルチャーを見る人がいるから奇異の目で見られることをもっとちゃんと考えないといけない。
リョージとマイクの約束。
これはヤイチがフラットな人だから実現したわけじゃない。弟を理解出来ず、理解しようとすることを避け、でも夏菜ちゃんを通して真剣に弟と向き合い自身を鑑み反省した末の家族。
ただ弟の幸せを単純に願えば遠回りせずに済んだ距離。
最後のエピローグ、ね、お願い。みんな読んでね。
そして世の中から偏見をなくそう!なんて大それた事は思わない。隣の人の幸せをただ祝う。そんな自分にみんながなるといい。そう思う。